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神戸地方裁判所 昭和58年(タ)14号 判決 1983年9月05日

原告 甲野花子

被告 神戸地方検察庁検事正

主文

一  亡甲山三郎(本籍○○市○○町○○丁目○○番地)が亡甲山一子(本籍 ○○県○○郡○○町○○番地)の子であることを確認する。

二  亡甲山三郎(本籍は主文第一項と同じ)と亡甲山一男(本籍 ○○県○○郡○○町○○番)及び甲山春子(本籍 ○○県○○郡○○町○○番)との間にいずれも親子関係が存在しないことを確認する。

三  訴訟費用は国庫の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

主文同旨

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  亡甲山三郎(以下「三郎」という。なお、同人はもと「太郎」という名であつたが、昭和三年五月一日、神戸区裁判所において戸籍訂正の許可を受けて「三郎」と改めたものである。)は、戸籍上は、亡甲山一男と同人妻亡春子(以下、両名を「一男」、「春子」という。)の三男として明治二二年一〇月三日出生した旨記載されている。

2  しかし、三郎は、真実は、一男または春子のいずれの子でもなく、亡甲山一子(以下「一子」という。)の非嫡出子である。

すなわち、一子は右同日ころ、婚姻関係にない某男との間の子として三郎を出産したが、一子の父であつた一男が世間体をはばかつて三郎を自己の実子とする虚偽の出生届をした結果、戸籍上、三郎は一男と春子の三男である旨記載されたのである。

3  原告は、三郎の妻である。三郎は昭和三六年二月二九日死亡したが、一子はすでに昭和三年一一月二七日に死亡しており、一子には三郎の他に子はなく、かつ、三郎にはその死亡時に生存した子も、子の代襲相続人もないので、原告が三郎の唯一の相続人である。ところが、戸籍上は三郎に兄弟がある旨記載されており、その表見代襲相続人らの一部の者が遺産の  分配等を要求するので、原告は相続不動産について相続登記手続をすることができない。

4  よつて、原告は戸籍を訂正するため、三郎が一子の子であること及び三郎と一男及び春子との間に親子関係が存在しないことの確認を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実は認める。

2  同2の事実は不知。

3  同3のうち、三郎が死亡したこと、戸籍上、同人の死亡時に生存した子も、子の代襲相続人もいないことは認め、その余の事実は不知。

第三証拠<省略>

理由

一  死者相互間の親子関係の存否の確認を求める訴えは、過去の法律関係の確認を求めるものではあるが、当該親子関係をめぐつて現に紛争が存在し、かつ、その親子関係を確定することが現在の紛争解決のために有効適切であると認められ、しかも、当該親子関係の存否に関する判決の効力を第三者にも画一的に及ぼすことが適当であると考えられる事情が存在する場合には、当該父母または子の親族は、人事訴訟手続法三二条二項、二条三項を類推して、検察官を相手方として、死者相互間の親子関係存否の確認を求める利益があるものと解するのが相当である。

これを本件についてみると、その方式及び趣旨により公務員が職務上作成したものと認められるから真正な公文書と推定すべき甲第一号証、第三ないし第八号証、第一一ないし第三〇号証及び弁論の全趣旨を総合すれば、三郎は、戸籍上は当時の本籍○○県○○郡○○町○○番戸主一男及び同人妻春子の三男として明治二二年一〇月五日出生した旨記載されており、一子の子として戸籍に記載されていないこと、原告は三郎の妻であること、三郎は昭和三六年二月二〇日死亡したが、同人の戸籍上の兄弟姉妹には代襲相続人がおり、その一部の者と原告の間で、三郎の遺産相続をめぐつて争いがあることが認められる。

そうすると、三郎と一子、一男及び春子との間に親子関係が存在するか否かを判決によつて確定することが、原告と右表見代襲相続人らとの現在の紛争を解決するために有効適切であるばかりでなく、将来同一の親子関係をめ ぐつて新たな紛争を生じた場合に矛盾した判断がされることを防止することにもなるというべきであるから、結局、本件訴えはいずれも適法なものと解するのが相当である。

二  そこで、本件親子関係の各存否について判断する。

前掲甲第一号証、第四ないし第八号証、その方式及び趣旨により公務員が職務上作成したものと認められるから真正な公文書と推定すべき甲第三一号証の二の印影との対照により成立を認める甲第三一号証の一、原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨を総合すると、三郎が一子の子であることについては、原告、甲山秋子とも一子自身から聞いており、また、原告は三郎からも、甲山秋子は同人の父であり一子の弟である次郎からも、それぞれ同様のことを何度も聞いており、さらに他の親族も一子が三郎の母であることに疑いをいれていなかつたこと、一子の葬式は三郎が主宰し、形見分けも三郎と原告とでしたこと、一子は大正一四年に分家したが、その死亡後、三郎が家督を相続していること、春子は天保一一年六月七日生まれで、三郎の出生した明治二二年一〇月五日には既に四九才であり、三郎を生むのは生理的に困難であるのに対し、一子は明治元年五月二〇日生まれであつて、三郎の出生当時二二才であつたこと、三郎の戸籍上の兄弟の代襲相続人らは、いずれも適式の訴訟告知を受けながら本訴に補助参加の申出をしないこと、以上の事実が認められ、右認定に反する証拠はない。

以上の認定事実によれば、三郎は一子の子であり、三郎と一男及び春子との間には親子関係は存在しないものと認めるのが相当である。

三  よつて、原告の本訴請求はいずれも理由があるから、これを認容し、訴訟費用の負担につき人事訴訟手続法三二条、一七条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 中川敏男 上原健嗣 小田幸生)

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